秋桜(コスモス)

トラックの運転中にうんこがしたくなるのは、誰もが経験があること。幸いにも、恥ずかしがり屋な性分の為、小学生の時から校門括約筋を鍛えていたので、みぞおちにパンチを喰らわない限り、豪快にパンツへホールインワンすることはない。そんなこともあって、小学校の昼休み、体育館の隅にある誰も使わなさそうな古びたトイレに侵入し、用を足すのが当時の僕のルーティンだった。なおかつ、昼休みが終わった後の掃除当番もそこのトイレ掃除を任せられていた、というのもあり、友達からは「番人」と呼ばれていた。

体育館の外に出て裏へ回り、しばらく左へ進むと、そこに殺風景な古びたトイレがあった。昔ながらの、カビ臭い石室みたいなイメージがあれば分かりやすいと思う。入り口から入って、右から見れば小便器の列。左を見れば大便器の列がズラリ。天井は今にも崩れそうな薄い板。石でできた床は若干、苔が生えており子供ながらに恐怖心を倍増させた。ちなみに、このトイレは男女共同である。外からはあまり見えることはないので隠れ宿としては最適だが、環境はあまり良くない。

冬の季節になれば北から飛んで来た冷たい風がトイレの中に入ってくるので、ブツが氷付けになるんじゃないのか、というぐらいキンキンに冷える時がある。しかも、ドア下のすきまから外の風を運んで来るので、露出したちんちんとアナルにピンポイントで接触するから、尚更タチが悪かった。梅雨・夏に関しては、特に最悪。生まれ育った南国鹿児島は、高温多湿でとにかく蒸し暑い。蒸し暑いうえに、ブツの臭いも凄まじい。たまに流し忘れたブツが置いてけぼりにされてるときもあったが、酷いときはトイレの入口からハッキリと臭気が鼻孔を突いてくるので、その時ほど人生に絶望したものはない。石室の中はヒンヤリとしてるので、リアルにトイレの花子さんが現れやしないかと、ビクビクしながら用を足すこともあった。

地元の小学校には、学校の七不思議というものは全く無縁だったが、体育館のトイレは別格で霊感がない僕から見ても、どことなく歪な雰囲気が漂っていた。人を寄せ付けない、見えないバリアが張ってあるような感覚。それでも、トイレに行かなければならない。何故ならば、僕はトイレの「番人」だからである。

 

そんなある日のことだった。僕は、とある女性の秘密を知ってしまった。誰にも言えない秘密。目の前に広がった景色が美しく、宇宙が無限に広がっていた。未だに、その思い出が色褪せないぐらい鮮明に覚えてるほどだ。

体育館の横には、小学校の学年別で花壇が置かれており、用務員のおじさんが丁寧に水やり、草むしりを行い大事に育てている。その花壇のすぐ奥に広がる空地には、秋になると見渡す限りの秋桜が辺り一面に咲く。七色のカラフルな秋桜が星座のようにキラキラと輝いて見えた。

 

その日は、風が非常に冷たく、秋の知らせを告げるような寂しい雰囲気を醸し出した曇り空だった。ちょうど秋桜が咲き始めた、肌寒い昼休みの出来事。友達と外で遊んでいるとき、吸い込まれるように体育館のトイレへと走っていく彼女の存在が気になったからだ。彼女は眉間にシワを寄せ、なにか焦っている様子だ。

何故か心臓の鼓動がえらく昂っている。なんとか落ち着かせ、トイレへと歩みを進める。そう、これは調査だ。トイレの「番人」としての義務だからだ。見えないバリアを乗り越え、石室に一歩を踏み込む。普段の雰囲気とは違う、宇宙を感じた瞬間だった。

 

 

 

 

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