はじめてのチュウ 前編(瞳をとじて)


眠れない夜、君のせいだよ。

さっき別れたばかりなのに

耳たぶが for you.

燃えている for you.

 

 

これは、僕がトラック運転手を始める数年前のお話です。

前回のブログで自衛隊にいた、ということを書きましたが地元の高校を出てすぐ、特に夢もなんもないまま、自衛隊の世界に飛び込みました。自衛隊に入ったのはあくまでも給料のため、鹿屋に海上自衛隊の基地があったので広報官から「鹿屋に帰れるよ」という名の売り文句を真に受けたのもあるのですが

当時はまだ18歳の僕。山と川に囲まれ、イノシンやスズメを地元のオヤジたちと獲ったり、道端に生えてる野草や山から流れている山水を食べたり飲んだり、まさにど田舎からでてきた人間でした。

もちろん初恋なんて、したことありません。小中の同級生に女子もいたのですが、そういう性的な心はまだ目覚めておらず、全くこれっぽっちの感情もありませんでした(ちなみにオナニーを覚えたのは高校に入ってすぐだったので、中学生同士のセックスなんて都市伝説だと思っていた)

高校は全校男子9割、全校女子1割の工業高校に入学。あの頃はリーマンショックと重なったので、資格を取ることが大事だと考えていました。専門科目は土木、建築、機械、電気、電子の5クラス。今とは全く関係ない仕事なのに、ただ就職先の会社が多かったというだけで電子を選びました(勉強した内容よりエロ本の中身ばっか読んでいたけど)

土木、建築はヤンチャ盛りの男子が集まり先生が手を焼くほどのわんぱくクラス。機械、電気はいたって普通の人間が集まる可もなく不可もなく、それといって存在感がないクラス。そして最後に残った電子はアニメオタクや頭でっかちなどが集まったイカ臭そうなクラス(その代わり、就職先で大手の所が多かった)。

そのイカ臭いクラスの中で、とびきりイカ臭かった(らしい)僕は3年間、彼女も作らず、クラスの友人から紹介された涼宮ハルヒの憂鬱を見てズブズブとオタクの沼に入り込んでしまったわけです。

そんな男だらけの高校3年間を過ごし、入隊して、もう男しかいない空間で3年間仕事することになるとは、当時の僕は全然考えすらいませんでした。

出身が鹿児島なので、厳しいことで有名な佐世保の教育隊でひたすらシゴきにシゴかれた4ヶ月、8月の月末に佐世保を離れ、同期10人一緒に別な勤務先へ移動しました。

 

 

場所は広島の呉。佐世保から鳥栖まで電車を乗り継ぎ、鳥栖から広島まで新幹線を通り、広島から呉まで1時間ガタンゴトン揺らされ、着いた頃は夕方。佐世保からやってきた白いセーラー服を着てる集団がゾロゾロと外に降りてくる。肩がこってヘロヘロな僕達の目の前、呉駅には海自の白い制服を着たイケメンお兄さんから

「はるばるご苦労様。他の教育隊から来てる同期がお前たちを待っている。ちょうどお前たちが最後だったからな。」

さぁ乗れと、後ろがオープンカー仕様のトラックに乗り込み、路面が悪い道路をガッタンゴットン揺られ約30分。

皆が白い顔をして、フランフランになりながらトラックから降りて、やっとかっと門をくぐる。

門の先には警衛所。警衛所から周りを見渡せば、そこは海の目の前だった。鉄の黒い塊が何台もバースでプカプカと浮かんでいた。日が沈む日没5分前のラッパが鳴った。オレンジ色の夕焼けが反射し、黒い塊を余計ギラギラさせる。

「よう」

薄暗い電気が点いた大きな建物のドアから、ひょこひょことおっさんが現れた。

教官が「整列!」と声をかける。職業病ですぐに、ピタッと横一列に並ぶ。ちょうど僕は、そのおっさんの目の前に立った。

池乃めだかと同じくらいの身長の小さいおっさん。顔面は西郷隆盛ばりの濃さなのに、池乃めだか。そんな池乃めだかは酒を飲んでいたのか、顔が真っ赤だった(シラフでも常に真っ赤らしい)

「佐世保から来た諸君。夜遅くまではるばると呉までご苦労だった。今夜はゆっくりと休んでくれたまえ。諸君らの他に、全国から集まった者たちがいる。これから、この隊舎で約半年間、同じ屋根の下で暮らし、同じ屋根の下で飯を食い、そして同じ時間を共有していく仲間、同期だ。その仲間と共に、君達はこれからの若い力になってほしい。よろしく頼む。」

おっさんとは距離が2mほど離れていた。しかし、目の前だったので酒臭かった息がツーンとして目に沁みた。それでも僕は不動の姿勢で話を聞いた。

「我々の言葉として、ノーユアボートという言葉がある。己の艦を知れ、という意味だ。我々は狭い共同体の中で暮らす。よって、集団で助け合うことも大事なのだが、やはり艦というそのものを知らなければいけない。ここは、その艦を勉強していく、いわば学校だ。私はここの校長。そして、諸君らはここの生徒。年齢、出身は違えど、同じ一つのクラスで勉強する仲間。諸君らは試験を乗り越え、選ばれた数少ない者たちだ。その事を誇りに思い、仲間との過ごした時間を噛みしめて生活してほしい。さて、話が長くなって申し訳ない。私からは以上だ。また明日会おう、諸君」

「ヒック」

しゃっくりをしながらフラフラと隊舎に戻るおっさん、いや、訓練隊長。階級は2佐。なかなかのお偉いさんだ。また酒でも飲むのだろうか。

そんなこんなで隊舎の食堂でご飯を食べ、部屋で荷物を降ろす。10畳ぐらいだったかは覚えていないが、狭い部屋に16人ぎゅうぎゅう詰めのタコ部屋に2段ベッドが8組と鉄のロッカーが16個存在するだけのなんとも殺風景な所だったのは覚えている。他の同期15人との挨拶も適当に済ませ、誰よりも早くベッドに寝転んだ。とにかくひたすらドナドナ揺られて疲れており、なおかつ酒臭かったので気分が悪かった。今思えば、あれは日本酒の匂いだった。ちょうど9時手前。電気を消す1時間前、誰よりも早くイビキを掻いていたと後から同期に言われたのは言うまでもない。

 

「潜水艦教育訓練隊」

トラックから降りた門の入口、ピカールで磨かれ、街灯でキラキラと反射された大きく書かれた看板が唯一の存在感を放っていた。目の前に浮かんでいる鉄の黒い塊が潮の変わり目でゆらゆら揺れる。クァークァーとカモメが糞を飛ばし、白い斑点を作る。逃げも隠れも出来ない海に浮かぶ塊が、道路の消えかかったオレンジ色の街灯で不気味に照らされていた。

略して潜訓。オタクなら知る人ぞ知る、潜水艦乗りには避けては通れない登竜門。ここを終業し、呉、横須賀の2つしかない基地を行き来することになる。

ちなみに、童貞を捨てたのは潜訓に入って1ヶ月後のことです。それはまた、次のお話です

 

good 15
bad 0
 
 

1件のコメント

  1. すごい…!文字の色って変えられるのか!(そこ?)
    なんかもうこの記事ひとつで完全に小説になってる!!はやく続きが読みたい!読んでくるね!!!

    good 1
    bad 0
     
     

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です