はじめてのチュウ 後編1(鋼のレジスタンス)


デートコースはもう決めたんだ。

明日の夢が膨らんでくる

この愛を to you.

いつまでも to you.

 

 

潜訓に来て早くも1ヶ月、初めての外出の許可が出されました。その間、ひたすら隊舎の中で缶詰生活だったので、まぁ、股間が苦しいのなんの。久々の外へ解放される喜びからか、誰もが携帯を握りしめ、風俗サイトで早速情報を得ようとする強者たちがそれぞれ輪を組んでエッチ団結していました。

余談ですが、同期の中には奥さんが呉にいて、外出のときは二人きりで一緒に過ごすんだと(キラキラした目で)、さぞかし夜の生活は楽しいだろうなと皮肉を言ったら逆ギレされて喧嘩のもとになるエピソードもありまして。

教育隊でも外出があったのですが、なんせ下っ端のペーペーだったので、外出するときは白い制服にしっっっっっかりとアイロンがけしてシワを出さずに、革靴も綺麗に靴墨を付けてゴキブリみたいに黒光りの状態にしないとお外には出れなかったのです(あとは腐るほど細かいところがあるのですが書くのが面倒なので省略)

とにもかくにも、外へ出るには厳しいチェックをことごとくクリアしないといけないので、すぐに合格クリアする者もいれば、朝8時からチェックを受けてお昼の1時にやっと合格する者もいるわけです。ちなみに、外出期間は朝の8時から夕方4時まで。遅刻して4時を越えた暁には、集団で呼び出され、太陽を浴びた熱々のアスファルトで腕立て伏せをされることも多々ありました(これを、巻き添えという)

「もはや外出しなくてもいいのでは?」と面倒くさがりな僕は、佐世保にいる4ヶ月の間、片手で数えるぐらいしか外へ出ませんでした。逆に教官から「なんで外に出ないんだ!」と怒られる始末で、その時は嫌々外出してコンビニでタバコ買ってすぐ帰るのを繰り返してました。ちなみに、佐世保が一番身だしなみについて厳しかったらしいです。(佐世保の街へ繰り出すにも、タクシーで1500円出さないと行けなかったぐらい、周辺は何もなかった)

そんな佐世保とは違い、潜訓から外出するときはとてもゆるーーーーーーーーーいものでした。

服装は襟つきシャツ(チェック柄)に長ズボン。リュックに帽子、いかにも旧世代のオタクの格好なんですが、忌々しい制服を着なくて済むのであれば、なんだって構いませんでした。

外出は基本、集団行動。当時40人いた僕のクラス全員、それぞれ班を組んで呉の街、広島の街へ繰り出していきました。買い物する者もいれば、家に帰る者もいる。それぞれが外の世界の空気、シャバの空気が美味しいと笑顔で隊舎を後にしました。

僕が組んだ同期のグループは4人、岡山出身でバイク乗りのタカオ、名古屋から来たトシ、同じ鹿児島の出水から来た同世代のヨシツネの4人で広島へ。目的はもちろん、広島のソープを体験することでした。

 

 

広島の流川。そこは飲み屋の中心街。至る場所にカープの看板とオタフクソースの看板。夜はネオンが光り、飲み屋のボーイとキャバ嬢がチラホラと歩いている。

しかし、時は昼間、看板娘はおろか看板猫すらも見つからない。排水溝回りには投げ捨てられたタバコ、何故か使用済みコンドームが排水溝に入っていたので少し幻滅する。

気持ちを切り替え、前へと進む。股間は既に臨戦態勢。ダウジングマシンのようにウニウニと動き、風俗サイトに載っていたお店を探しながらレーダーを張る。気合いが昂りすぎてダウジングマシンから透明な糸が溢れていたが、白濁の液体が出ないようにしつつ、魚の目鷹の目で探し、ついにお店に到着。4人の股間はズボンを盛り上げ、それはまさに剣を真ん中へ突き上げ、契りを交わす戦士のようだった。

「一人は皆のために、皆は一人のために」

教育隊でゴリゴリに刷り込まれた概念、腕立て伏せをさせる教官はもういない。会うこともない。その概念はソープで女を抱くものへと変わり、それこそエッチ団結、ここまで長い長い期間を耐えてきたのも、すべてはこの時のためであったのだ。

「行こう」

タカオがふりしぼるように声を出す。緊張しているのか、興奮しているのか、息が荒く体が震えていた。25歳のタカオ、遠距離だった彼女が浮気をしてしまい、そのモヤモヤを発散させようとしていた。バイク以外にもシューティングゲームが大好きらしく、オナニーでも1日の回数が多いので、ついたアダ名が「早撃ちのび太(包茎)」ちなみに、初体験する前に別れたので、タカオも童貞である。

「おう、戦友たちよ」

トシはポキポキと指をならし、ニヤニヤとズボンの中に手を入れる。クラス40人の中で誰よりも大きいと言われているトシの肉棒こと、ダークネス(黒いから)。一瞬、亀の頭らしきモノが見えたが、無視しておこう。ポジショニングチェックを完了させ、余裕の笑みを浮かべる。だがしかし、こう見えてトシも童貞である。

「へへ、おいら楽しみだなぁ」

同じ鹿児島から踏み出してきた同世代のヨシツネ。住んでいた場所は正反対。だが、性欲に対する煩悩は常に一緒の方向へ向いていた。あまりにも早漏すぎて、アイルトン・セナと周りから馬鹿にされるも、常に前向きな為、女の子のお友達が多いという。しかし3歩進んですぐ忘れるぐらいの能天気なため、その一歩先の戦線には踏み込んでいない模様。よって、童貞である。

お気づきだろうか。

そう。誰もが皆、童貞なのである。

 

同時に前へ、一歩前へ進む。その一歩は周りからすれば、どうでもいいものだ。しかし、童貞たちからすれば、それは偉大な一歩なのである。まるで月へ上陸したアポロ11号のように。松茸の露の匂いがツーンと鼻にくる。隊長の酒臭い息と比べたら、そんなことはどうだっていい。

ウィーンと自動ドアが開く。アポロ11号は無事にソープへと上陸し、偉大な一歩を踏み出した。

 

「いらっしゃいませ」

 

目の前に、タキシードスーツを着た初老の男性が深々とお辞儀をする。あまりにも神々しくて、なんか申し訳ない気持ちになった。なんせ、全員がチェックの襟つきシャツでジーパン、地味なリュックを背負い黒く日焼けした坊主頭の軍団なのだから。

 

「本日は、ご来店いただき誠にありがとうございます。皆様、本日のご指名はいかがなさいますか?」

にっこりと笑みを浮かべ、思わず言葉に詰まる。バリトンボイスが効いた低く重い声、しかしそれは相手を脅す訳ではなく、癒しを与える温かくも優しい声だった。

 

「あ、あ、あ、あ、いえ、特に、なにも」

プレッシャーに弱いタカオが声を詰まらせる。あ、ダメだ。皆怯んでしまった。あまりにも外の世界の人間と話をしなさすぎて喋ることを忘れてしまったようだ。トシは知らんぷりして明後日の方向見てるし、ヨシツネは全く考えてない。よし、僕が行こう。バリトンボイスに負けないよう、空気を変えるべく重苦しい松茸臭い空気のなか、僕の口がゆっくりと動いた。

 

「写真指名で、お願いします」

 

 

 

 

「かしこまりました」

 

バリトンがにこやかに微笑む。よし、まずは先手必勝だ。何の意味もわからない達成感を出し、安そうなクリアファイルがまとめられた冊子をバリトンが取り出した。

 

「では、こちらに写っている女の子たちが、本日出勤している女の子になります。ちょうど4人いますので、今からでも案内は出来ますよ。」

まるで女神のような女性たちが僕たちを見つめていた。写真だけど。写真からも感じる癒しのオーラ、世の中には様々な綺麗な人達がいるのだ。井の中の蛙、大海を知らず。蛇に睨まれた蛙のように、僕たちは不動の姿勢で立ちすくんでいた。写真だけど。股間は爆発寸前まで来ており、全ての肉棒が空へと突き出していた。早く、息子たちに世界を見せたい。こんな綺麗な世の中があるのだと引きこもりだった息子たちに見せてあげたい。

写真だけですぐに冥界へ召されそうな僕たちにバリトンは追い討ちをかけた。

 

「では、お決まりになりましたらお呼びくださいませ」

 

システム料金を払い、広い部屋に案内されたアポロ、いや、ケロロ軍団。

我々は今、危険な状態なのであります。デコポンの女性というものは、極めて危ないのであります。

だが不思議なことに恐怖を感じない。むしろ、興奮が止まらない。体の細胞たちが「生きよう」と立ち上がり、戦を始めようとしている。そう、これは天下分け目の関ヶ原か。違う、これは夏の陣だ。大阪夏の陣ならぬ、広島微妙な秋の陣。

 

誰しもが戦意を失っていない。静かな空間のなか、沸々と沸き上がっているのを感じる。

 

「よろしい。ならば戦争(クリーク)だ」

僕がそういった刹那、法螺貝のような音が聞こえた。

「戦争、戦争だ。諸君。私は戦争が大好きだ。88mm(アハトアハト)の砲弾を打ち放すのだ」

漫画ヘルシングを読んでいたので、つい口走ってしまった。オタクの悪い癖だ。そう、ついに、僕たちの戦争が始まってしまったようだ。

 

 

時は平成、地球温暖化のせいで地味に蒸し暑かった9月の終わり。法螺貝のように聞こえたその音は、昼の12時を知らせる、ただの時報だった。

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