はじめてのチュウ 後編2(恋する瞳は美しい)

店内はバリトンの他に、茶髪の兄ちゃん、黒ひげ危機一髪の髭をしたような熊みたいなコワモテお兄さん、他にも数名いるみたいだが、詳しいことは覚えていない。そもそも、野郎には興味がないのだ。せっかくソープに来たというのに、野郎がいてはせっかくのアハトアハトがやる気をなくしてしまう。皆、それぞれお好みの女の子がいないのか、それとも緊張して選びようがないのか、挙動不審になっていた。

「やっぱ、お兄さんのオススメでお願いします」

バリトンにそう僕が伝えると、「かしこまりました」と頭を下げ、顎に手を置いた。眉をひそめ、うーんと低くこもった声を出す。考え中のようだ。

そもそも、なぜ最年長のタカオが先陣を切らないのか、タカオはただボーッと突っ立っているだけでなにもしない。なんか腹立ってきたので、可愛い女の子は僕が優先的に貰おう。異論は認めない。

 

「この子はどうでしょうか?」

バリトンが写真の女の子へ指を指す。ショートヘアーにクリクリした目、いかにも愛くるしいチワワのような女の子だ。他の女の子の写真をチラッと見る。そこまでパッとしない。決定権は僕の股間、アハトアハトが全ての権限を持っている。チワワの女の子にさっきからロックオンしているから分かるのだ。

チワワの名前はアゲハ。年は22歳。上から順に身長158cm、体重56kgの少々ムッチリ。B86 W54 H94の理想的ワガママボディ。これぞ、女性の黄金比。パーフェッボディだ。アハトアハトよ、僕はこの子に決めた。

 

 

「この子で、お願いします」

 

 

バリトンは不敵な笑みを浮かべる。

 

(勝った…………!!!)

 

その時の僕の顔は、デスノートの夜神月ばりのゲス顔だったそうな。他の連中が選んだ女なんか知らん。僕は目の前にいる獲物にかぶりつきたい、禁断症状が押さえられなくなっていた。このままでは、リュークみたいに体をクネクネしてしまう。もはや、股間もポジショニングが怪しいのか、固まったままグネグネしていた。

「すぐにご案内が出来ます。このカーテンの前にどうぞ、お立ちください。女の子の準備ができましたらカーテンを開けますので、もうしばらくお待ちください」

部屋を出てちょっと歩いた先の廊下に黒いカーテンが目の前を遮っていた。足元に段差があったので、階段で女の子が待機し、カーテンを開ければ一緒に次の段へ進むのだろう。

右後にバリトンが近づく。細身だが、なかなかの身長。185cmもあらろうか、その存在感は後ろからも感じ取れ、気を抜くと圧迫されてしまうようだ。バリトンがトントンと肩を叩く。振り向くまもなく、耳元でバリトンボイスが囁いた。

 

「アゲハは、店内でナンバーワンを誇る人気の女の子です。お客様は大変幸運でございます。余談ですが、アゲハは店内でも性欲がナンバーワンですので、くれぐれも搾られすぎないよう、お気をつけください」

 

まるで死刑宣告をするように、恐ろしいことを言う。だが、後には引けない。準備が出来たようだ。心の中でゴングが鳴る。全ては一瞬の出来事。しかし、カーテンが開く瞬間、それは永遠のように時が止まってるようだった。

 

 

トンネルを抜ければ、そこは雪国だった。

川端康成の小説、雪国の有名な節である。でも、どちらかと言えば夏目漱石が好きなのでそこまで詳しくない。吾輩は猫であるを読んでいたけど、そこまであまり覚えていない。永遠のような一瞬の時間、僕はそんなどうでもいいことを考えていた。そこには女の子が立っていた。

 

 

カーテンを開けば、そこには女神が笑顔で待っていた。

 

「では、お客様。楽しいお時間をお過ごしください。」

 

バリトンが深々とお辞儀をしたと同時にカーテンが閉まる。ありがとう、バリトン。無駄にはしない。名前知らんけど。あと、地味に高い料金払ってるからそれなりに楽しみたい。いや、今は、目の前にいる女神との時間を大事にしたい。カーテンが閉じた今、そこは二人だけの空間なのである。そう、まさにここは川端康成が描いた雪国。一歩、階段をあがる。女神が手を差し出す。「どうぞ」と柔らかい手を握る。女の子と手を繋いだのは、中学校でのフォークダンス以来だ。しかも、当時は女子も女の概念を捨てた別な生き物みたいになっており、もはや何者なのかわからなかった。

 

柔らかい。手の感触が一瞬で脳髄に響き渡る。心臓がパンクしそうになるのを抑え、なんとか平静を保つ。アハトアハトは我慢の限界だからか、透明な露が溢れ、ズボンが濡れるのを感じた。よく頑張った。アハトアハトよ、これからはお前の時間だ。

 

「限界そうですね」

匂いを感じたのか、女神が小声で呟いた。綾波レイのような感情がこもってないような声だ。不意に恥ずかしくなり、赤くなった顔を隠そうと俯く。誰が見ても分かるように、アハトアハトの輪郭がピチピチのジーパンにくっきりと大きく輪郭を作っていた。真ん中は地味に濡れていた。

「うふふ、恥ずかしがり屋さんですね。」

笑った。笑われてしまった。しかし、余計興奮してきた。

「さぁ、顔をあげてください。部屋に案内しますね」

そう言われ、顔をあげたその時だった。

 

 

恐怖。圧倒的恐怖

 

バリトンの言葉が頭をよぎった。性欲ナンバーワンというのは、冗談ではなかったのだ。

蛇に睨まれた蛙どころではない。髪の毛が蛇と化したメデューサに睨まれ、体が石のように固くなった。

動け、動けよ。アムロ・レイも紅い彗星のシャアと出会った時もこんな感触だったのだろうか。ニュータイプ、今まで出会ったことない女性だ。コイツはとんでもない。搾り殺されてしまう。危険予知反応とは裏腹に、アハトアハトの脈動が早くなる。なんなんだ、戦闘民族のサイヤ人かコイツは。

 

「どうしました?」

 

意識が現実へと戻る。危ないところだった。

「いえ、なんでもないです。すいません」

緊張して早口になるのは、オタクの悪い癖である。

「それならよかった。では、行きましょう」

カツン、カツン、カツン、ハイヒールの音が階段から次の部屋へと響き渡る。隣に並んだ女神の姿は、とても綺麗で非の打ち所がない。しかし、先ほど見た恐怖の瞬間、脳髄に刻まれてから忘れることが出来なかった。

童貞を搾り殺す女性。彼女はまさに、死刑執行人。ここまで来たら死ぬのは本望。覚悟は出来ていた。ならば、男たるもの、立派に戦い死んでやろうではないか。

ドアの前に着いた。このドアを開ければ、僕はこの女性と、これからセックスをする。すると、女神は振り向いて僕と目が合い、そして微笑んだ。なんとも可愛らしい。もう射精しそうだ。

 

「はじめまして、お客様。紹介が遅くなりました、アゲハです。本日はよろしくお願いします。」

なんだ、挨拶か。内心、ホッとしたのも束の間だった。アゲハが急に抱き寄せ、ゆっくりと顔を耳元に近づかせる。「あーん」と声がした。アゲハの声だ。しかし、まるで別人のように違っていた。

長い舌を出し、涎を含ませたその舌で耳の穴をジュルリと舐めた。嘘だろ、まだ部屋にも入ってないんだぞ。続いて反対側の耳の穴をジュルジュルと舐める。嘘だろ、犬にも舐められたことないのに。

 

うふふ、舌なめずりをしてアゲハは笑う。まるで悪魔の微笑みのようだ。そこには、女神の姿をしたアゲハはいなかった。童貞を搾り殺すメデューサが目の色を変え、両手を僕の頭の横に添える。互いの距離は10cmもない。香水の匂い、唇の煌めき、そして吸い込まれそうな瞳。その瞳は鮮やかで黒く、僕の情けない姿が反射して見えるほどだった。もしこれが隊長だったら、色んな意味でショック死しそうだ。

 

「いっぱい、いーっぱい、楽しもうね。お姉さんと2人であんなことや~、こんなことして~、うふふふふふふ」

力を失った。ダメだ、もうおしまいだ。メデューサの目を見てしまった僕は、彼女の道具になってしまうしかないのだ。理性がどんどん遠のいていくのを感じた。

 

薄暗い廊下から、更に暗い部屋へ入る。バタァァンと閉まった鉄の重いドアに、メデューサはカチャリと鍵をかけた。

ドアが閉まった音よりも、鍵の音だけが暗闇に吸い込まれるように、消えていった。

 

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3件のコメント

  1. ほんとに可愛い人だったんだ…予想とちがった…!いい意味で期待を裏切られ続けてます!!続きが気になる!!!!!

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