打上花火

夏と言えば、そう。海。いや、夏祭り。いやいや、クラブで女子とズッコンバッコン(自主規制)

など、人によって楽しみかたは様々でございます。その中でも、僕にとって夏と言えば印象深いのが、打上花火なのであります。

線香花火とは対照的に、打上花火はドーンと大きな音を立て潔く散っていきます。そこには、派手さもあれば消えゆく儚さもあるわけで。

花火のスケールも街によって全然違いますね。ドカンドカンと大砲のように撃ち鳴らす所や、ポンポンといたちっ屁みたいに地味な所もあります(ヒュルルルと音を鳴らし、螺旋のように落ちていくあの花火の名前ってなんなんだろう)

一般的なデートコースのシメとして使用されるのは、もはや当たり前。どうして男女というものは、花火を見て両想いになったり、お互いの愛情がより強くなったりするんでしょうか。嗚呼、全くもって羨ましいかつ、けしからん。

そもそも、女性が浴衣を着てることが一番許せないわけです。なぜ、あの薄い生地に華の絵がチョロっと載っているだけの衣装を着せるだけで、より一層可愛く、美しく見えるんでしょうか。不思議です。浴衣マジックはとても不思議です。

夏祭りに、浴衣姿の同級生と一緒にテキ屋でたこ焼き、イカ焼き、かき氷、綿飴を食べて金魚すくい、射的、輪投げだったりとキャッキャウフフしながら青春を送るのが、一番の夢でした。想い出ではありません。夢です。えぇ、夢です。

話はさておき、こういうのは、思春期真っ盛りで互いの想いがなかなか伝えづらい男女の目線で考えたら、妄想が捗りますね。

 

 

初デートで互いに緊張しながら夏祭りを楽しむ2人。浴衣姿の彼女を見て、余計にドギマギする少年。そんな少年の姿を見てドギマギする少女。そのせいで、こっちが見てて恥ずかしくなるほどの不器用なカップル。シメはなんといっても、地元の職人たちが気合いを込めて製作した巨大打上花火。互いに恥ずかしがり屋なため、人気のいない高台に登って、時間になるまで二人きりで待機することに。

高台からは夏祭りの様子が伺えるほど、アリみたいに集団で行動してる様子がはっきりと見えた。辺りは一面の林で、高台から落下しないようにフェンスが設置されている。その林は川が流れており、運が良ければ野生のホタルにも遭遇出来るのだとか。

お互い、手を握り空を見つめる。月がはっきりと輝いた満天の星空だが、地味に蒸し暑い。湿気のせいなのか、それとも緊張のせいなのか、二人の結んだ手にはじわーっと手汗が広がった。

何を話そう。少年はあれこれ考えるも、口から上手く言葉が吐き出せない。

汗臭くないかな。薄い生地の浴衣から汗が染みてきた少女は、密かに顔を真っ赤にしていた。

二人の間の沈黙の時間は、ゆっくりと流れていく。時間が立つにつれ、ますます何を話していいのか余計に気まずくなってしまった。少年は勇気を出して、重い口を開いた。

楽しい?

少女は一瞬ビクッとしたが、すぐに言葉を返した。

うん。楽しいよ。

にっこりと少女は少年に微笑む。耳が火傷しそうになるぐらい暑くなった。ふと、想い出が走馬灯のように甦る。

 

 

2人は小・中学校と共に過ごした幼なじみだった。高校は別の学校へ進み、少年は芸術部、少女はテニス部へとそれぞれ違う道を歩み始めた。

華奢で色白な少年に対し、日焼けして発育がいい肉体に成長した少女。対照的な2人だが、唯一共通してることは口下手なことだった。高校最後の夏といえど、互いに成長した姿を見て、余計恥ずかしくなってしまう。

そんな2人の出会いは、少年が通う高校の文化祭によるものだった。外は、ヤンチャな男子高校生たちが女子高の生徒と絡みたいがために、気合いを入れてアピールするも無視される。学年ごとに手作りの輪投げ、水風船すくいなど子供が楽しめる要素もあれば、体育館では演劇部によるむさ苦しい時代劇。軽音楽部で結成されたクオリティが低いコピーバンド。文化祭なのに盛り上がることが禁止されていたので、生徒全員は椅子に強制的に座らされ、先生監視の元で静かに黙って楽しむ、ある意味地獄のような行事だった。

少年は体育館に行くことなく、静かにただ独り美術室に籠っていた。展示品を飾ることなく、少年が描いたデッサンが至るところに転がっている。窓を開けたカーテンから、涼しい風が舞い込んでくた。カリカリと何かを描く少年。時間を忘れたかのように、黙々と室内の隅で作業をしていた。

すいません。

ふと、声が聞こえたので思わず顔をあげる。顔をあげた先には、女子高の制服を着た日焼けした少女が美術室のドアにポツンと立っていた。ツインテールでミニスカートで巨乳。ダメだ。照れてしまう。

中に、入ってもいいですか?

特に断る理由もない。どうぞ、と愛想がない返事をしてすぐに作業に戻る。時計の針の音と、鉛筆の音だけが室内に広がる。キョロキョロと、少女は室内に置かれてるデッサンや、美術部員の名前が描いてあるコンクール金賞の絵をじーっと眺めていた。どのくらい物色してたのだろうか。かれこれ長く滞在してるような感じだった。

すいません。

少女の声が聞こえた。顔を見上げると、少女が近くにいたせいか2人同時にビクッとしてしまった。むしろ、少年よりも少女の方が驚いていたかもしれない。顔を赤くした少女は、壁に貼られてる一枚の絵を指差しながらこう尋ねた。

この絵は、あなたが描いたんですか?

少女が指した絵は、コンクール金賞の作品だった。太陽のようにギラギラと塗られた油絵で描かれた力強い一輪の向日葵に、背景が星空に囲まれた芸術的な絵だった。

違います。

少年は即答で答える。しかし、次の瞬間、少年の心臓が停まるほどの大声が響き渡った。

嘘つかないで!

風が急激に強くなり、カーテンがガタガタと舞う。スケッチブックがバラバラと広がり、やがて止まる。目には涙を浮かべた少女がいた。彼女からすれば、ありったけの感情表現なんだろうか。

もう、自分に嘘をつくのやめてよ

うつむいた少女からポタッポタッと涙が床に落ちる。見てるこっちも辛くなってくる。忘れようとしていた何かが動き出すのを感じた。ゴソゴソと、彼女はカバンから一枚の紙を取り出した。目の前に掲げられたそれは、ビリビリに破かれた紙をセロハンテープで丁寧に張られたものだ。

その紙に描かれていたものは、壁に貼られていたものと同様、鉛筆で塗られた一輪の向日葵だった。

 

少女がとある名前を呼んだ。それは少年の名前だった。

この紙を描いた人と、金賞の作品を描いた人は同じ人物だと。

中学校の時、極度の人見知りが原因でクラスメートから虐められていた私に、プレゼントだと放課後、その人物から譲ってくれた大切なものだと。

クラス全員から生意気だとビリビリに破り捨てられ、絶望に浸っていた私に大丈夫だよと声をかけ続けてくれたこと、ボロボロにされながらも虐めたクラスメートに勇気を持って立ち向かった人物がいたこと、虐めにより少女が転校したことで、お互い離ればなれになってあの時の感謝の気持ちを伝えきれなくて後悔してると、涙ながらに少女はあらゆることを話してくれた。

2人きりの美術室。時計の針の音だけが室内に響く。

消しゴムで消した想い出が、鉛筆でスケッチされるように甦ってきた。少女が転校してから、虐めの標的が少年に代わり、毎日辛い生活を送ることになった。夢を馬鹿にされることはおろか、今まで書き留めていたスケッチブックを破り捨てられたり、信頼していた先生からも見捨てられたりなど、耐えられない生活だった。不登校になり、現実から逃げるために地元の連中がいない、遠くにある高校へ通うことを決めた少年は、必死に勉強をしたことで、無事に合格することが出来た。そして、夢だったコンクール金賞に輝くことも出来たのであった。

少女との想い出が甦り、ふと目頭が熱くなる。膝についていた両手に力がぐっと加わるのを感じた。

少年は立ち上がり、少女の名前を呼んだ。少女は、はいと返事をした。

少年は力強く、少女の名前を呼んだ。少女は涙声で返事をした。

やがて少年は、喉をつもらせ、少女の前で泣いた。園児のようにえんえんと、大声で泣いた。少女は少年の元へ歩み寄り、華奢な身体を優しく抱きしめた。ありがとうと、涙を浮かべ感謝を込めて抱きしめた。時は夕方。涙が枯れ果て、気が落ち着いてきた少年少女2人は誰もいない美術室で、静かに愛を育んでいた。カーテンが2人を包み込むように、穏やかな風が吹いた。

 

あれから数ヶ月が立った。体の関係は何度も結んでいるにも関わらず、連絡先を交換したのはつい最近の出来事、というぐらい夜は積極的だが、昼間はかなり人見知りな2人。夏祭りについて誘いが来たのは、少年からの電話だった。その少年は、少女の隣に立っている。

耳が真っ赤になってる。可愛い。少年の反応を見た少女も、より耳が真っ赤になっていた。

そういえば

少女が思い出したかのように、ある疑問を少年へぶつけた。

どうして、向日葵の絵を描こうと思ったの?

昔から思っていた疑問だった。それを聞いた少年は、ふふっと微笑んだ。

 

向日葵って、花火みたいに力強いイメージがあったんだよね。

ほら、君の名前と一緒だよ。

 

え??

?マークが脳内にポンポンと沸いてくる。どういう意味なのか、分からなかった。途端、急に目の前の景色が赤く黄色に輝いた。

 

 

花火が打ち上がった。しかも、超特大の。太陽のように大きい。そしてそれは、少年が描いた向日葵にそっくりだった。

何度も何度も、超特大の花火が続々と打ち上がった。音が大きいので、周りの声が全然聞こえない。祭りの人達も皆、呆然と空に向かって立ちすくんでいる。地元の職人たちは、相当気合いを込めて作ったに違いない。星空に咲く巨大な向日葵が大地を照らす。それは、太陽のようにギラギラと辺りを照らしていた。

 

それぞれの名前の通り、君は花火で、僕は星空。

僕たちは2人で1つ。これからも、その関係性は変わらない。

君には、向日葵のように輝いてほしい。そして、最後の光が消えるそのときまで、僕と最後まで一緒にそばにいてほしい。僕は君を支える星空だから、何がなんでも、君を離しはしないから。

少年は上の空になっている少女に向き合い、ぎゅっと抱きしめた。意味を理解した少女は、瞬間湯沸し器のようにみるみる温度が上がり、頭から湯気が出そうになった。汗の匂いはもう、どうでもよくなった。

君が好きだ

耳元で少年が小声で囁く。騒然とした中、一言一句、はっきりと聞き取れた。恥ずかしさのあまり、少年は彼女の豊満な胸元に顔をうずむけた。

先の見えない話はしなかった。お互いの将来の夢、今後の生き方はまだ別な話。今はただ、一瞬一瞬の日々を大事に過ごすことだと、2人はそう思ったのだ。

私も、好きだよ

少女が言葉を返す。その時、2人のほぼ真上に、2つの打上花火が大きく花を咲いた。花火の光が2人を温かく包み込む。目と目が合った少年少女は、恥ずかしがることなく、笑顔で笑った。

星空という巨大なスケッチブックに、2つの花火が描かれる。それはまるで、2つの向日葵が隣で寄り添うように。星空は雲一つなく、星の光一粒が丁寧にはっきりと見えた。明日はきっと、いい天気になるだろう。

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