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配車女子 とら子の「一配一会」『帰り荷』なんて存在しない。トラック運送業の『適正原価』を現場から考える
2026年8月31日
国土交通省で検討が進められている、トラック運送業の「適正原価」。
先日、8月26日に適正原価の有識者検討会第二回目が行われました。
運送業の現場にいる私にとっては、とても気になるテーマ。
SNSを始めた当初から主張している、
運賃が安すぎる。
ドライバーの賃金が上がらない。
という問題にダイレクトに係ってくることだからです。
車両を維持する費用も、安全にかかる費用も上がっている。
それなのに、荷主との運賃交渉では「相場」という言葉で片付けられてしまう。
では、国が「適正原価」というものを制度として作るのであれば、
そもそも、何をもって「適正」とするのか。
そこを現場の立場から考えてみようと思いました。
そして、意見をまとめて提出しました。
「地域」で原価を決めるだけで、本当に実態に合うのか
私が最初に問題提起したのは、適正原価を設定する「地域」の単位についてです。
都道府県別に適正原価を考えること自体には、一定の合理性があります。
最低賃金など、都道府県によって異なるコストがあるからです。
でも、運送業の現場から見ると、それだけでは説明できません。
同じ関西でも、大阪・神戸の阪神間と、それ以外の地域では運賃相場が大きく違います。
なぜか。
大きな要因の一つが、荷物の出荷量です。
荷物がたくさん出る地域では、トラックの仕事が集まりやすい。
一方、出荷量が少ない地域では、仕事そのものが少ない。
つまり、
「地域」だけではなく「その地域にどれだけ荷物があるのか」
まで考えなければ、実際の物流を反映した原価にはならないのではないか。
そう考えました。
そこで私は、都道府県ごとの原価を単純に設定するのではなく、
出荷量・物流量などを加味した調整
を行ってはどうか、と提案しました。
さらに、2025年から始まった「特定荷主」からの情報提供によって、物流に関するデータが蓄積されていくのであれば、それを適正原価の算定にも活用できるのではないか。
一つの制度だけで完結させるのではなく、別の制度で集めているデータを、別の制度にもつなげていく。
そんな発想で各制度の点を線にしていくことが大切だと思っています。
「帰り荷」という言葉をなくしたい
そして、もう一つ、どうしても伝えたかったことがあります。
それが、
「帰り荷」という言葉についてです。
私は意見の中で、
「『帰り荷』などという荷物は存在しない」
と書きました。
「帰り荷だから安い」
という考え方が、運送業界には根強くあります。
でも、トラックもドライバーも、復路を走ればコストが発生します。
燃料も必要です。
車両も動きます。
タイヤも減ります。
整備も必要です。
ドライバーの労働時間も発生します。
それなのに、
「帰りだから安くていい」
という一言で、その輸送の価値が低く評価されてしまう。
私は、ここにずっと大きな違和感を持っています。
適正原価という制度を作るのであれば、
「帰り荷だから安い」という考え方そのものを見直す機会にしてほしい。
そう思っています。
行政が「帰り荷」という言葉を使えば、それだけでこの商慣行を容認してしまう可能性があります。
適正原価を本当に作るのであれば、
「帰り荷だから安い」ではなく、「その輸送にいくらの原価がかかっているのか」
という視点に変えていく必要があると思います。
適正原価は、会社の利益だけの話ではない
もう一つ、私が提案したのが、
トラックドライバーへの適正な賃金の支払いをどう担保するのか
という問題です。
適正原価を設定して、
「この金額を下回ってはいけません」
となったとしても、そのお金がすべて会社の利益に回ってしまったら、ドライバーの待遇改善には直接つながりません。
運送業を持続可能な産業にする。
そのためには、ドライバーが働き続けたいと思える賃金水準が必要です。
だから私は、
適正原価とドライバーの賃金を制度上つなげられないか
という提案をしました。
建設業における労務費の考え方も参考にしながら、運送業においても人件費を適正原価の重要な構成要素として明確に位置付ける。
そして、適正原価として収受した人件費相当額が、実際にドライバーの処遇改善につながる仕組みを考える。
「適正原価を設定すること」がゴールではなく、
適正原価によって、現場で働く人の生活がどう変わるのか。
そこまで考える必要があると思っています。
「基準日」も必要だと思った
さらに、適正原価を一度決めたら終わり、ということにしてはいけないとも考えました。
燃料価格も変わります。
車両価格も変わります。
整備費も変わります。
最低賃金も変わります。
物価も変わります。
だから、
「いつの時点の原価なのか」
を明確にする必要があります。
なので、「基準日」を設定して、毎年度その適正性を確認する仕組みを提案しました。
基準日時点の原価を基礎として、そこから一定期間の物価変動率や最低賃金の変動などを反映する。
そうすれば、制度を作った時点では適正だった原価が、数年後には実態と大きく乖離している、という事態も防ぎやすくなります。
でも、ここで終わりではない
意見を出す。
そしてその論点が意見書に掲載される。
それで終わりじゃない。
むしろ、私の中ではここからです。
意見書に掲載されたことで、
「じゃあ、適正原価を本当に機能させるためには、他に何が必要なんだろう?」
と、さらに考えるようになりました。
例えば、
労災保険料と安全コスト
運送業は、安全を確保するためにさまざまなコストを負担しています。
車両整備、安全教育、健康管理、安全設備。
そして労災保険料。
安全にお金をかけることができる運送会社を作るためには、こうしたコストを適正原価の中でどう評価するのかも重要です。
労災保険にはメリット制という仕組みがあります。
同じ業種の中で労災発生率が低い会社には保険料を安くする、また発生率が高い会社は保険料が高くなるという仕組みです。
このメリット制の仕組みを活用することはできないか。つまり、
安全対策に積極的に取り組む運送事業者へのインセンティブとして、もっと活用できないか。
そんなことも考えていってもいいんじゃないかと思っています。。
出版物の配送にも、別の可能性がある
この検討会で出版業界から出された出版配送についての意見書を見て、もう一つ考えました。
出版物には、
全国どこでも同じ価格で購入できる
という商品特性があります。
でも、北海道に運ぶ場合と、東京に運ぶ場合では、物流コストは当然違います。
商品価格を全国一律にするのであれば、その差をどこかが負担する必要があります。
大前提としてその負担を運送業が負う必要は一切ない、ということ。
この前提を元にすると
「全国一律価格を維持するために、運送会社の運賃を抑える」のではなく、物流そのものを変えられないか。
という発想が出てきます。
例えば、長距離の幹線輸送を鉄道に転換し、集荷・配達をトラックが担う。
つまり、中間輸送のモーダルシフトです。
全国一律価格という理念を守ることと、トラック運送事業者に適正な原価を確保すること。
この二つを両立させるために、「運賃を下げる」以外の方法を考える。
これも、適正原価の議論から広がってきた私の新しい問題意識です。
現場の人間だからこそ、言えることがある
私は大学の研究者でもありません。
政策の専門家でもありません。
ただ、長年、運送会社の現場で働いてきました。
だからこそ、
「この制度、本当に現場で使えるの?」
と思うことが沢山あります。
数字だけを見ていると見えないことがあります。
同じ都道府県でも、荷物が集まる場所と集まらない場所では違う。
同じトラックでも、往路と復路で仕事の条件が違う。
同じ運賃でも、会社によって利益構造が違う。
そして、会社の売上が増えても、それがドライバーの賃金に反映されなければ、働く人の生活は変わりません。
だから私は、
「運送業の現場から見たら、この制度はどう見えるのか」
という視点を、これからも発信していきたいと思っています。
意見を出すことに意味がある
今、運送業は変革の時期です。
現場からの意見もどんどん取り入れる環境が整っています。
つまり、
「現場の人間が制度について意見を言ってもいい」
ということです。
もちろん、すべての意見が採用されるわけではありません。
自分の考えが、そのまま制度になるわけでもありません。
でも、声を上げなければ、そもそも議論のテーブルに乗ることもありません。
「なんかおかしい」
で終わらせるのではなく、
「なぜおかしいと思うのか」
「どう変えればいいのか」
「その変更によって誰にどんなメリットがあるのか」
そこまで考えて言葉にする。
それが、現場からできる政策提言なのだと思います。
今、この状況はとても歓迎すべき状況です。
なぜなら
運送業の現場で感じていた違和感が、国の制度を考える議論の中に入ったこと。
そして、その議論がまだ続いているからです。
適正原価は、これから制度として形になっていきます。
だから私は、これからも現場から考えて発信していこうと思っています。
「本当にこれで、運送業は持続可能になるのか?」
その問いを持ちながら、制度の行方を見ていきたいと思います。
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プロフィール

とら子
トラック運転できないAT限定免許配車マン。
トラックは街の風景だと思って過ごしてきた学生時代。 けど今はドライバーさんのおかげでご飯食べれています。
配車はドライバーさんと荷主の緩衝材。 目の前の利益より損して得取れ精神で配車係やらせてもらってます。 -
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コメント
素晴らしい内容です。
短絡的な発想ばかりではなく継続的な発想を提唱されており
行政各所より現場実態に沿った内容で指示させていただきます。
ちなみに弊社は運賃値上げで運転手の給料を3年連続5%~15%upして雇用確保しております。