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配車女子 とら子の「一配一会」適正原価は「打撃」なのか。「猶予」を求める声を、運送会社の目線で読み解く
2026年10月19日 New
※本記事は『物流ウィークリー』の記事をもとに、加筆・編集したものです。
「新聞輸送は絶対に運賃値上げはできない」
新聞輸送に携わるトラック事業者の多くが、荷主の新聞社からそう告げられて久しい、という記事を読みました。
その新聞業界を代表して、日本新聞協会の立場で読売新聞グループ本社の山口寿一社長が、トラックの「適正原価」制度を検討するヒアリングの場で発言したそうです。
適正原価を「打撃」と表現し、猶予を求めた。
この発言をどう受け止めればよいのか、運送会社の目線で整理してみたいと思います。
1.10月1日のヒアリングで、何が語られたのか
まず、記事で伝えられている事実を整理します。
山口社長は10月1日の検討会で意見を述べました。
記事によると、適正原価制度が施行されれば「日本経済に大きな打撃となる恐れ」があるとして、全業種の荷主に対する猶予を求めたとのことです。
そのうえで、全業種への猶予がかなわなくても、「新聞に対する一定の猶予期間と段階的導入」を政府に要望しています。
また、加盟各社の報道によると、同協会などの団体は9月28日にも首相官邸を訪れ、段階的導入などを求める要望書を木原稔官房長官に手交したと伝えられています。
主な発言内容は、次のとおりです。
・読売では、おおむね年1回、輸送会社の求めに応じて交渉の場を設けている
・料金改定は小刻みに行い、昨年度と今年度の2回で計5%強の値上げを実施した
・定時配達を守る必要があり、積載率の向上は容易ではない
・輸送効率の悪い小型トラックが中心で、帰りの荷物を見つけるのが難しい
・適正原価の設計では、実車率の設定に違和感がある
・減価償却期間や人件費についても、設定上の措置を求めたい
・ドライバーの待遇改善という法の趣旨は理解できるが、荷主の負担への配慮も必要
2.「年2.5%の値上げ」は、どう読めばいいのか
山口社長は、2年間で5%強、単純計算で年2.5%の値上げをしてきたと説明しています。
この数字だけを見て、「十分だ」とも「全然足りない」とも、私には言えません。
なぜなら、比べるべきなのは値上げの率ではなく、その運賃が運送にかかる原価を賄えているかどうかだからです。
もともとの運賃が原価に対して低ければ、そこから2.5%上げても、足りないままかもしれません。
反対に、もともと原価を上回る水準なら、状況は違ってきます。
実際にどうなのかは、個々の運行データと原価を照らし合わせた、統計的な検証が必要です。
だからこそ、適正原価という「物差し」が議論されているのではないでしょうか。
3.「帰り荷が見つからない」は、運賃を下げていい理由になるのか
今回の発言で、私が特に引っかかったのはここです。
「輸送効率が悪い小型トラックが中心で、帰りの荷物を見つけるのが難しい」
新聞は定時に届けなければならない。
だから積載率を上げにくい。
この事情自体は、現場を知る人間として理解できます。
新聞の配送が時間に厳しいことは、事実です。
積載率が上げられず、帰りの荷物も見つからないのであれば、その運行は「効率の悪い運行」ということになります。
効率が悪い運行は、1回あたりにかかるコストが高くなる。
ですがそれは本来、運賃を抑える理由ではなく、運賃に反映すべき理由ではないでしょうか。
以前書いた『「帰り荷」なんて存在しない。トラック運送業の「適正原価」を現場から考える』でも触れましたが、帰り荷
が見つかる前提で運賃を考えること自体が、現場の実態とずれていると私は思っています。
ちなみに「実車率」とは、走った距離のうち、荷物を積んで走っている距離の割合のことです。
実車率の設定は、適正原価の計算に直結します。
だからこそ、どんな前提で数字を置くのかは、とても重要な論点です。
新聞社側が「違和感がある」と述べたのであれば、
新聞輸送の実態がどうなのかを、データで示してもらう必要があります。
その議論は、運送会社側も一緒に参加すべきものだと思います。
4.「猶予」と「段階的導入」の間、コストは誰が負担するのか
猶予や段階的導入を求める声は、新聞に限った話ではないでしょう。
急な変化に対応できない荷主がいることも、現実としてあると思います。
ただ、ここで一番大事な問いがあります。
猶予されている間、そのコストは誰が負担しているのでしょうか。
運賃が原価に届いていないなら、足りない分は運送会社が自分たちで被っているか、ドライバーの賃金や労働時間に跳ね返っているか。
そのどちらかです。
山口社長は「ドライバーの待遇改善という法の趣旨は理解できる」と述べたそうです。
その趣旨を理解しているのであれば、猶予の期間中も待遇改善が止まらない仕組みを、あわせて議論する必要があるのではないでしょうか。
「猶予」とは、導入を後ろにずらすことです。
後ろにずらしている間も、ドライバーの生活は続いています。
この視点が抜けた議論になってしまうと、現場にとっては「結局、また我慢か」という話になりかねません。
5.SNSの辛辣なコメントを、どう受け止めるか
今回の記事では、SNS上で同協会や新聞各社への非難が相次いでいることも伝えられています。
たとえば、次のようなコメントです。
「その打撃を最前線で請け負ってきた運送業がもう無理って言ってるのですよ。 気づかないふりはもうやめていただきたいですね。」
↑まぁこれは私の発言なんですけども、SNS上では色んな意見が出されています。
全業種に求める猶予がかなわなくても、新聞にだけは猶予を、と求めた点も、批判の的になっているようです。
ただ、大切なのは感情のぶつけ合いではなく、何が論点なのかを冷静に見ることだと思っています。
ええ、めっちゃ大人な対応です。(自画自賛)
論点は、突き詰めると次の3つではないでしょうか。
①新聞輸送の実態は、どんなデータで示されるのか
②猶予や段階的導入を認める場合、その間のコストを誰が負うのか
③ドライバーの待遇改善という目的を、どう担保するのか
6.制度はまだ決まっていない。だからこそ、運送会社にできること
適正原価の具体的な設計は、現時点では検討の途中です。
実車率、減価償却期間、人件費など、どんな前提で数字を置くのかは、今後の議論で変わる可能性があります。
※今後の正式な内容を確認する必要があります。
適正原価の詳細な内容が出てくる間に運送会社には、できることがあると思っています。
自社の運行について、次のような実態を数字で把握しておくことです。
・実際に、どれだけの距離を走っているのか
・そのうち、荷物を積んで走っている距離はどれくらいか
・荷待ちや付帯作業に、どれだけの時間がかかっているのか
・その運行で、いくらの運賃を収受しているのか
「うちの運行は効率が悪い」と感覚で言うだけでは、荷主に届きません。
数字で説明できてはじめて、交渉の土台に乗ります。
今回のように荷主側が公の場で事情を主張する以上、運送側も事実をもって応じる必要があるのではないでしょうか。
7.適正原価は、誰かを罰するための制度ではない
最後に、あらためて伝えたいことがあります。
適正原価は「打撃」なのか。
荷主にとっては、負担が増える側面はあるかもしれません。
けれど、運送会社やドライバーにとっては、これまで見えにくかった原価を、ようやく共通の物差しで語れるようになるチャンスでもあります。
誰かが損をして、誰かが得をする話ではなく、運ぶためにかかるコストを、みんなで正しく見ようという話のはずです。
新聞の定時配達は、社会にとって大切な仕組みです。
その仕組みを、これから先も続けるために。
だからこそ現場で運んでいる人が持続できる条件を、一緒に考えていく必要があるのではないでしょうか。
「猶予」を求める声があるなら、その猶予の先に、どんな姿を描いているのか。
その答えまで、聞かせてほしいですし輸送事業者へしっかり共有すべきであるというのが運送会社側からの意見でもあります。
やみくもに「自社製品の値上げを防ぐため」に猶予を求めるのであればそれはフェアではありません。
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プロフィール

とら子
トラック運転できないAT限定免許配車マン。
トラックは街の風景だと思って過ごしてきた学生時代。 けど今はドライバーさんのおかげでご飯食べれています。
配車はドライバーさんと荷主の緩衝材。 目の前の利益より損して得取れ精神で配車係やらせてもらってます。 -
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