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    【適正原価の「段階的導入」で、運賃の最低ラインはどう変わる?21項目の行方を現場目線で考える】

    2026年10月23日 New

     
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    ※本記事は『物流ウィークリー』の記事をもとに、加筆・編集したものです。   「適正原価の『段階的導入』を検討している」     10月13日、国土交通大臣が会見でそう発言した、という記事を読みました。   先日書いた『適正原価は「打撃」なのか。「猶予」を求める声を、運送会社の目線で読み解く』で触れた、新聞業界の「猶予・段階的導入」の要望。   その続きが、ここで動き始めたことになります。   今回は、この「段階的導入」とは何なのか、運賃の最低ラインにどう影響しうるのかを、運送会社の目線で整理してみたいと思います。  

    1.10月13日の大臣発言で、何が語られたのか

      まず、記事で伝えられている事実を整理します。   きっかけは、新聞・出版の業界団体から10月8日に大臣宛の要望があったことです。   制度に「猶予期間」を設けてほしい、という内容でした。   これに対して大臣は、会見で次のような趣旨の発言をしたと伝えられています。   ・適正原価制度は2028年6月までに施行することになっており、法律の猶予期間の設定は難しい   ・施行までの約2年間と、事業許可の更新申請までの約2年間を使って、運賃交渉などに対応してほしい   ・一方で、国交省としても、この約4年間における制度の段階的な導入を検討している   つまり、法律上の猶予は認めない。   でも、運用の中で「段階」をつくることは検討する、ということです。   記事によると、適正原価制度について国交大臣が発言するのは異例だそうです。   荷主業界の要望に、制度の所管大臣がすぐ反応したことに、トラック業界からは反発があるのではないか、とも書かれています。  

    2.「段階的導入」とは、具体的に何をするのか

      ここで気になるのは、「段階的」とは何をどう段階にするのか、という点です。   制度設計を担当する貨物流通事業課は、取材に対して次のように話したと伝えられています。   「最初からすべてを積み上げた制度にするのか、施行から(更新の)申請開始までの2年間で少しずつ(項目数を)上げていくのか」   適正原価とは、運賃を考えるときの「これを下回ってはいけない」という原価の物差しのことです。   その物差しは、いくつもの費用項目を積み上げてできています。   国交省がすでに案として出している構成要素は、次のとおりです。   ・トラック運賃部分の「固定費」8項目   ・トラック運賃部分の「変動費」6項目   ・待機や積み込み作業などの料金部分(燃料サーチャージ、フェリー利用料なども含む)7項目   合計で21項目です。   この21項目を「制度スタート時から入れるもの」と「更新申請が始まるタイミングから入れるもの」に分ける方法だ、   と記事は伝えています。   担当課も「入れない項目の分、適正原価の最低ラインが低くなる」と認めているそうです。   ここが一番大事なところではないでしょうか。  

    3.項目を後ろにずらすと、最低ラインはどうなるのか

      少し噛み砕いてみましょう。   たとえば、ある費用項目が適正原価に入るのが、施行ではなく2年後になったとします。  

    その間も、トラックを動かすために必要な費用は発生し続けます。

     

    ただし、制度上の適正原価にその費用が反映されなければ、算定される最低ラインには、その分が十分に反映されない可能性があります。

    もちろん、制度に含まれていない費用だからといって、運賃交渉で主張できなくなるわけではありません。

     

    しかし、制度上の基準と実際に必要な費用に差が生じれば、その差をどう説明し、荷主に理解してもらうのかという問題が残ります。

      荷主から「まだ原価に入っていない項目ですよね」と言われたら、どう返せばよいのでしょうか。   現場で交渉する側の立場で考えると、ここは見過ごせません。   そして、1本目の記事でも書いた問い、   最低ラインが低い期間、足りない分のコストは誰が負担するのでしょうか。   を改めて危機感を持って問いかけないといけません。   運送会社が被るか、ドライバーの賃金や労働時間に跳ね返るか。   多くの場合、そのどちらかです。   「段階的」という言葉は、やわらかく聞こえます。   でも、その段階の途中を走っているのは、現場の運送会社とドライバーなんですよね。  

    4. そもそも、なぜ「原価」という名前なのか

      SNSでも言いましたが、   私は以前から「原価」という名前そのものを変えたほうがいいのではないか、と思っています。   なぜなら、適正原価が運賃の目標として受け止められてしまうからです。   原価とは、運ぶためにかかった費用のことです。   一方、   運賃とは、原価に加え、会社が事業を続けていくために必要なものまで含めて、荷主と運送会社が取引で決めるものです。   この2つは本来、別のものです。   実際に、適正原価有識者検討会では荷主側から「原価と運賃は区別してほしい」という声が上がっています。   この指摘、私はもっともだと思っています。   なぜって「原価」=コストだからです。   「原価」という名前があることで   ・「原価さえ払えば運賃として十分」という受け止め方が広がる   ・議論の中心がコストの内訳の細かい点検になり、事業を続けるための原資が見えなくなる   ・「原価を下回らなければいい」が、【運賃の目標】のように扱われてしまう可能性がある   本来、適正原価は「これを下回ってはいけない最低ライン」のはずです。   目指す運賃の水準ではありません。   ですが「原価」という言葉でそこがぼやけてしまっている印象がすごくある。   「ギリギリ赤字にならないライン」と受け取られてしまうとドライバーの処遇改善という制度の目的から少しずつずれていってしまいます。   ただの名前だから、名称だから、ということで済ますにはリスクが大きすぎます。   制度がどう受け止められ、どう使われるかを左右するものです。   ただ、今回、記事を読むと「原価」という言葉は法律の条文そのものに入っています。   名称を変えるには、法律上の用語の扱いも含めて整理が必要になるはずです。   それでも段階的導入の議論が進むこのタイミングだからこそ、言葉の問題も一緒に考えてほしいと思っています。  

    5.省令で「時期をずらす」ことは、本当にできるのか

      記事では、そもそも法的にそんなことができるのか、という点にも触れています。   2028年6月までに施行される貨物自動車運送事業法の改正部分に、第9条の2という条文があります。   要約すると、国交大臣は運賃や料金について、「通常必要と認められる費用であって国土交通省令で定めるもの」を的確に反映した原価を定めることができる、という内容です。   ここで出てくる「省令」とは、法律の細かい部分を、国交省の判断で定める決まりのことです。   この条文自体には、「段階的」という文言はありません。   ただ、記事によると、省令の中で、たとえば「オイル費は〇年□月から適正原価の費用として適用する」と名指しで定めれば、その項目を入れる時期を遅らせることは可能だとされています。   つまり、法律は変えずに、省令で段階をつくれる状況にある、という見立てです。   ここは、あくまで記事による見方です。 ※段階的導入は国交省の内部で検討している段階で、具体的な内容は決まっていません。今後の正式な内容を確認する必要があります。   また、今回の内部検討は、適正原価を議論している有識者検討会とは別のところで進んでいるとも書かれています。   検討会のテーマとして、項目ごとの段階的導入はまだ挙がっていないそうです。   どこで、誰が、どんな根拠で決めるのか。   その過程が見えることも、大切なのではないでしょうか。  

    5.SNSの「骨抜き」という声と、荷主側の事情

      会見の直後から、SNSでは次のような反応があったと伝えられています。   「荷主側の主張に制度が骨抜きにされる」   私自身も同じ懸念を持っています。   大臣は「法律の猶予期間の設定は難しい」と述べています。   施行日そのものを遅らせるわけではない、ということです。   荷主側にも、急な変化に対応できない事情があることは、現実としてあると思います。   だからこそ見るべきなのは、「段階的」という言葉の中身です。   どの項目が、いつから入るのか。   最初に入る項目は、現場のコストの何割をカバーしているのか。   この中身次第で、「現実的な移行期間」にもなれば、「実質的な先送り」にもなりえます。   だからこそ、運送会社側も黙っているわけにはいかないのです。  

    6.段階より先に決めたい「物差し」の問題

      今回の記事を読んで、もう一つ気になったことがあります。   段階的導入の議論の影に隠れていますが、算定式そのものにも課題がある、という点です。   国交省が検討会に示している算定式は、次のような考え方です。   ・「時間当たり固定費」や「キロ当たり変動費」は、大臣が定数として告示する   ・「総稼働時間」や「総走行距離」は、トラック事業者が自分の運行について代入する   の「代入」について、記事には気になる指摘が並んでいます。   走行距離を実際より短く代入すれば、適正原価が下がってしまう。   デジタコの数値を使うとしても、待機時間と休憩時間の区別といった操作で、適正原価が下がる可能性がある。   国交省は、時間や距離の決め方を「制度運用上の問題点」と認めた一方で、「制度設計の問題には含まれない」としているそうです。   さらに、デジタコから数値を引用するかどうかは、まだ未定だとのことです。   これは、正直者がバカを見る話になりかねません。   実際の運行どおりに正しく代入している会社の適正原価が高くなり、数字を低めに入れた会社の適正原価が低くなる。   そうなれば、同業者間の価格競争力に差が出てしまいます。   どんなに項目を積み上げても、そこに入れる数字が信用できなければ、物差しとしては機能しません。   段階的導入の議論と同じくらい、いえ、それ以上に、数字の客観性をどう担保するのかは重要ではないでしょうか。   ※実際にどの程度の影響が出るのかは、統計的な検証が必要です。  

    7.これから約4年間、運送会社に必要なこと

      大臣は、施行までの約2年間と更新申請までの約2年間を使って、運賃交渉などに対応してほしいと述べました。   その言葉どおりに受け取るなら、この約4年間は、運送会社にとって「待つ期間」ではなく「準備する期間」になります。   私が必要だと思うことは、次の3つです。   ・自社の運行について、走行距離・稼働時間・待機時間・収受した運賃を、日々のデータとして残しておく   ・適正原価の21項目と、自社の実際のコストを照らし合わせておく   ・制度の中身が決まっていく過程を、見逃さずに追いかける   特に1つ目は、制度がどんな形に決まっても、荷主に説明するときの土台になります。   「うちの運行には、これだけの時間と費用がかかっている。だからこの金額が必要です」   そう数字で言える会社と、言えない会社。   その差は、これから確実に大きくなっていくのではないでしょうか。  

    まとめ

      段階的導入は決まったわけではありません。   なんの段階的な導入なのか、もまだわかりません。   ただ、何かを段階的に導入する検討が始まったことは事実です。   「猶予」でも「骨抜き」でもなく、どんな中身で、誰のために設計されるのか。   その行方を、現場の目線でこれからも見ていきたいと思います。   現場の声が反映されない制度にするのではなく、   現場の声が反映される制度にするためにももっともっと議論が必要だと考えています。  
     
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