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  • 2025年9月の最新投稿

    「海外の真似すればうまくいく」は幻想――現場だからわかるその理由

    2025年9月11日 New
    これからの運送業界 仕事 国の施策

     
    blog20250911
    今日はまず結論から言います。   海外でやって成功してるから日本にも取り入れたらいい!は何の根拠もありませんし浅はかさが露呈するので辞めたほうがいいと思います。   以上です。ザッツオール。センキュー。     もうブログここで終わってもいいです。我が記事に悔いなし。   いや、あかん。そうはいかん。  

    何でもかんでも「海外」出せばいいと思っている頭お花畑人へ。

      政治家の人がよく言いますよね。   「海外がやっているから日本も!」   実はその発言で実際に導入されたり改革されたものって実はとても沢山あるんですね。   ・消費税   ・マイナンバーカード   ・IR(総合型リゾート)   ・残業規制/働き方改革   ・防衛費増額   などなど、「海外もやってるから日本もやろうよおおおお!!」が起源のものが沢山あります。     よし、わかった。     そんだけ「海外もやってる」って言うならわかった。     こっちも出るとこ出たろかい。     ということで運送業における荷主とのかかわり方を政治家さんたちが大好きなアメリカ、EUと比べて行こうと思います。(無理やり)  

    【荷主と運送会社の交渉内容・頻度】を比較

    【アメリカ】

      ①交渉頻度   ・年1回の「年間契約交渉」がベース   ・燃料や需給変動が激しい時は四半期ごとの見直し   ・スポット市場は毎回の取引が価格交渉(※)   ※スポット市場って何?やねんけど、アメリカって「スポット運賃市場」と「長期契約(日本でいう定期便)」の二本立てになっていて、大手荷主(ウォルマート、Amazonなど)と運送会社は年に1回~数回の「運賃交渉ラウンド(bidding/RFP)」ってのを実施しています。   スポット市場の場合はこのbiddingっていう交渉ラウンドが運行の度に行われてるってことなんですね。   ②交渉内容   ・運賃(距離単価)   ・燃料サーチャージ   ・待機料(積み下ろし遅延時に1時間あたり25~100ドル程度)   ・労働条件やサービス水準(時間指定、トレーラー待機の有無など)    

    【EU諸国】

      ①交渉頻度   ・基本は年1回の見直し   ・燃料や最低賃金改定のタイミングで臨時交渉   ②交渉内容   ・運賃(距離+時間+車輛タイプ)   ・燃料スライド条項(燃料価格が一定以上変動すると自動調整)   ・労働環境・安全(EU労働法に基づき、休息時間や拘束時間の遵守が必須なので)それを守るためのコスト転嫁分   ・サステナビリティ条件(Co2排出削減の目標、EVトラック導入など)のコスト転嫁分    

    【日本】

      ①交渉頻度   ・特に決まっていない   ・いつでもいい   ・いつでもいいのにいつでもよくない   ・交渉させてください!って言ったら予算組みの時期に合わせて~って言われがち   ②交渉内容   ・運賃(車両費、最低賃金などのコスト転嫁分。ただし法的効力など後ろ盾全くなし)   ・燃料サーチャージ(法的効力なし。交渉できてるかは知らん)   ・付帯作業費(法的効力なし。交渉できてるかは知らん)   ・待機料(法的効力なし。交渉できてるかは知らん)  

    日本との違い

      ・日本は「荷主が一方的に決める」傾向が強く、運送会社と荷主との個別の契約交渉のみとなっている。   ・欧米は「契約社会」で交渉は制度上も実務上も大前提。運賃に燃料・人件費を反映させる条項(燃料サーチャージ条項や燃料費連動条項)が標準化されている。   ・労働環境に関してもEUは「運転時間・休息義務」を守れない条件は契約にできない。     この違いを見てもわかりますが、     欧米は法の根拠や後ろ盾(条項)があり、運送会社と荷主が交渉テーブル上対等になるようなサポートがあります。   比べて日本は「自分らでなんとかせえ」という「可愛い子には旅させよ」スタイルを一貫して通していますが、相手は泣く子も黙る荷主様。     「お前、自分だけが苦労してると思ってんのか?ああん?」と言わんばかりの扱いをされて可愛いまま旅を終えます。あかん。     まず、ここまでの比較を見て「海外もやってるから日本もやろうよ!」ということがいかに浅はかかを思い知ってください。     海外もやってるから論を出すのであればまず環境整備してから出直してらっしゃい。    

    強気で交渉できない抜け駆け不安症候群in Japan

      日本が欧米のように強気で交渉できない理由は法的な環境整備が整っていないからこそ生まれる、   「他社が抜け駆けするんちゃうか」という不安です。     欧米はこの不安に対してどう対処してるのか。   それもちょっと調べてみました。   欧米が日本に比べて強気に交渉できる背景は【市場構造・制度・文化】の3つが大きく違う点からきています。    

    1.市場構造の違い

     
    【アメリカ】
    ・実際に大手荷主と直接取引できる規模の会社はかなり限られている ⇒中小運送会社は仲介業者経由で荷主と取引するため、交渉の場に立てない。   ・荷主にとっては「ある程度の規模を持ったキャリアが必要」なので切り捨てにくい。   ・スポット運賃は公開されているため運送会社は「相場を根拠に」強気で発言できる  
    【EU諸国】
    ・EUは規制が強いので「長距離労働や低運賃で回す業者」は自然と市場から退場する構造になっている。   ・労働時間・休息規制を守るためにはコストが必要である、と荷主を含めて全業者が納得している    

    2.制度の違い

      ・待機料金・燃料サーチャージが契約に標準装備⇒当たり前のように交渉できる   ・定期交渉(年1回など)がルール化されている   ・独禁法的な保護 ※EUでは「トラックカルテル禁止」がある一方で、労働環境や最低価格を守るための協調行動は認められる場合がある。 ※アメリカも「標準契約モデル」や「トラック協会による相場公開」で個別の業者が孤立しにくい環境を整えている。    

    3.文化の違い

      ・アメリカ、ヨーロッパともに契約社会である⇒「交渉しないほうが異常」という文化形成   ・労働権意識の高さ⇒ドライバーが「無理な契約は拒否」するのが当たり前。   ・価格=交渉対象という共通認識⇒「安価で受ける=サービスの質を落とす」と理解されている。     この3つを見ても、日本と大きく異なります。    

    日本との対比

      ・日本は「荷主が無数の運送会社を競わせられる市場構造」で中小零細が9割   ・法的に守られている最低ライン(待機料・燃料サーチャージ)が制度化されていない   ・「交渉=関係悪化リスク」という文化が根強い   つまり、   荷主と交渉できる運送会社の数は限られることがなく、交渉を行う前のルールも弱く、そもそも契約文化が薄いため、他社の抜け駆け不安が強くなるのです。     精神的に疲弊している、といっても過言ではないので治療が必要な状況です。     では、どんな治療をしていけば健全な交渉を行っていくことができるのか。     もうちょい深掘りしていきましょう。  

    日本の交渉健全化を進めるために

      まず治療の一つ目は「共通ルール」を制度化することです。   つまり、この治療では他社が抜け駆けできないような仕組みを作ることが目的です。   共通ルールとは   ①燃料スライド(燃料サーチャージを基準として燃料費が上がれば自動で運賃が変動する仕組み)   ②待機料   ③付帯作業費   ④拘束時間などの労働環境   などです。   制度化する、とは契約書に盛り込むだけではなく、国がこの内容に対して保証していくということ。   安心した取引交渉を行うためにも国のバックアップは必要不可欠です。   ①の燃料スライドは燃料だけではなく、最低賃金や人件費の上昇分も自動反映する仕組みに広げていくことが大切です。   ②と③の待機料と付帯作業費については国の呼びかけは行われていますが、制度化までは達成できていません。   これを制度化するためには「荷待ち〇分までは〇円、以降は時間単位で課金」や「連続運転制限」という標準ルールをまず作り、政府もしくはトラック協会がモデル契約に盛り込んで荷主に説明していくことで確立されていくはずです。     ちなみに、先ほど書いたアメリカの交渉で大手荷主と交渉できない中小企業はどうしているか、なんですが   実はアメリカの中小企業は貨物仲介事業者(freight broker)と交渉をします。   その際、運賃の交渉基準になるのは【レートボード】と呼ばれる過去の相場データです。   このレートボードを見ながら「この区間なら相場は1マイルあたり$2.50だから、$2.00では安すぎる」と交渉します。   ここは日本とそんなに変わりません。   ですが、労務環境改善の交渉は一切ありません。   なぜなら労働環境は交渉ではなく規制で守られているからです。   アメリカ運輸省(DOT)や連邦自動車運送事業者安全局(FMCSA)が運転時間規制(HOS)を厳しく定めているため、荷主も仲介業者もこれを前提にスケジュールを組まなくてはいけない規則になっています。     つまり、労働環境は交渉ではなく「規制」で守られており、日本のように運賃も労働環境も交渉で改善しなければならないわけではないのです。     日本は基本的に企業任せになっていて規制して統制を整える部分が極端に少ないです。     日本でも交渉を健全に進めていきたい、海外のようにしていきたい、というのであれば規制で守る部分と企業が交渉をして改善をお願いしていく部分とを切り分ける必要があります。   海外がやってるから日本でもやろう勢へもう1回言うとくな!   まずこの環境を把握し、規制で守らせる部分と交渉でやってもらう部分をしっかり分けて規制をしっかり確立してから言うて。マジで。話はそれからやねん。  

    まとめ

      日本と欧米の比較を見てそもそも文化も違うし規制の整い方が違い過ぎる点が非常に多いことがわかると思います。     欧米でやっていることをそっくりそのまま日本に当てはまめるのは難しいですし、   海外でやってるから日本で成功するとは言い切れません。   なので、日本でもまずできることを少しまとめてみました。     ①市場の見える化、透明度を増す⇒適正原価を相場としてもよし。   ⇒市場の相場公開で強気交渉の根拠、土壌を作っていくことが大事。「運賃のものさしアンケート」での結果を参照してもいいし、まずは相場観を見せていくことが大事。   ②交渉カレンダーを作って共有する   ⇒たっくさんある運送業の協会や共同体が運送業務別で交渉カレンダーを作成、共有することで業界全体が交渉していく様をみてもらうことが大事。   ③共通ルールを制度化する   ⇒交渉定期化や燃料サーチャージ、待機料、付帯作業費などは契約書に盛り込むなど制度化していく必要がある   ④クラウド型契約プラットフォームをつくる   ⇒交渉・契約をデジタル化して、標準条項(燃料サーチャージ・待機料・付帯作業費・高速代)入りの契約しか選べないようにする。     海外でやっていて日本でもやりたいと思うのであればまずは土壌を整えていくことが大切。     そこができていないのに「うまくいっている」ことだけを輸入しようというのは乱暴すぎます。     日本は欧米と違い、契約社会・訴訟社会ではありません。   日本は関係・慣行社会です。(人間関係や前例、実績が基盤の社会の事)     なのでその文化からひっくり返さないと欧米の契約社会上のルールは全く運用できない代物になります。     日本独自の関係・慣行社会の中でも少しずつ標準条項などを書面に盛り込んでルール化していくことがまずは第一歩。   現場から動かないと何も始まらない、という国でもあるので国が規制を作らないのであれば現場からやっていくしかありません。     ということで今日は日本と欧米の比較をベースに「海外で成功した事例は日本でも成功する」わけではないことを説明させていただきました。   まぁね、やるしかないもんね現場は。     これからもがんばりましょうね!
     
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